衝動 6



もう少しと思って気合入れると………、自分がやばい。
いつもこうだ。
いつもって言っても、まだ彼女とは2度目だけど。
がっかりさせたくない。
がっかりされたくない。
絶え間ない喘ぎ声が、尚一層僕を刺激する。

「‥‥ッは‥‥ッッ‥‥」

きた。
声にならない声。
苦悶の顔。
僕のせいで。
気持ちいいのも苦しいのも僕のせいですよね。
自分ももう限界だ。
最後だけ、彼女を物のように乱暴に扱った。
何度注ぎ込んでも飽き足らない。
かけたい、とも思ったが上手くタイミングがとれなかった。
体中に塗れさせたいと思う。
ふと、白い液体で満たしたバスタブに彼女がつかっているところを想像したが、こんなことを考えてるって知られたら気持ち悪がられるに違いない。

「喉が渇いた。」

僕もだ。

「お酒でいいですか?」
「水にしてくれ。」
「わかりました。」

グラスに水を注いで戻ると、受け取った彼女はすぐに何かを口に含んで飲み込んだ。

「薬ですか?どこか具合でも?」

なんて間の抜けた質問をしたんだろう。でもその時は心配したんだ。

「これは事後用の避妊薬だ。」
「えっ……。」

いきなり全身が冷えた。
馬鹿だ。
考えてなかったわけじゃないけど、なんとなく意識の外にやっていた。

「その……あの時も、それを?」

あの時……、初めてこの人を。

「あの時は、軍から支給された事前に飲んでおけば長期間効果のある薬を飲んでいた。まだあの時も期間内だったはずだ。まあ、避妊は出来てもお前が病気持ちなら話は変わるが。」
「そんな、病気なんてないです。」

感染経路が性的接触であるものに限るならば、だけど。

「そういうの、あるんですか。知らなかった。」

それにしても世話になりっぱなしだな。

「民間には出回ってないからな。前者は軍内のみで、更に体に悪影響があっても文句はないという宣誓書にサインした者にだけ。軍なんて色々ある所だし。後者は―――犯罪被害者のためのものだ。これは民間の医療機関にも置かれている。当然ここの医務室にも、だ。」
「は………。」

ちょっとごちゃごちゃして頭が回らない。
この人も………色々あったってこと?そりゃあ大人の女の人なんだから、少しはあっておかしくないけど……。もしかして僕の想像の範囲外のこととかなんだろうか。
犯罪……。
僕が彼女にしたことって……。

「それ……、これからもう一回したら、また飲まなきゃいけなくなるんですか?」

腕に縋りついて、肌に唇が触れるようにして聞いた。

「呆れたやつだな。そんなにすぐに効いてすぐに効果の切れる薬はない。第一、受精だってそんなにすぐにされるわけでもないし。」

受精……、すればいいのに。確かなものが欲しい。
何か生まれればいいのに。たくさん失ったんだから。
こうして触れ合ってる部分があるだけで気持ちいいな。
すごく……気持ちいい………。








………まぶしいな。
ん?まぶしい?
あれっ、朝?
いつの間に寝たんだろう。話をしている最中だったはずなのに。
まぶしいのは朝の光だけじゃなかった。
白い背中。また窓の外を見ている。
少し髪が伸びたみたいだ。
なんだか神々しすぎて触れるのが躊躇われる。

「ブラインドも何も、開けっ放しでしたね。」
「こんなとこ、誰も来ないからな。」

背中を向けたまま。

「それでも無用心じゃないですか?」
「敷地内に誰か来れば、あそこのモニターが勝手に映し出して知らせるし、高速で接近するような物を感知すれば、全ての外部防護壁が下りる。」

ああ、なるほど…………、ん?
ってことは僕が家の手前でうろうろしてたのもあそこに映ってたってこと?
うわ、恥ずかしい……。そのまま振り向かないで。
それに、わかってると思うけど、男だから朝のあの状態だし。
もう一度、と思うけど神聖な物を冒涜するような気がして手が出ない。

「見てるとしたら、あいつくらいだろう。」

あいつ?ああ、タイタンか。

「こうやって毎日見てると、今の私の唯一の家族みたいに思えてくるな。いや、ご近所さんかな?」

そんな………。
思わずまた肩を掴んでしまった。
あんなのが家族だなんて、そんな寂しいこと……。
僕が…、僕がずっと傍に………。
そう言いたかったのに全然言葉が口から出て来ない。

「もう……シャワーを浴びて帰れ。父親が心配してるだろう。」

その通りだ。父には泊まるなんて言って来なかった。
でも帰ればまたこの人は此処で独りになる。
そうは言っても帰らざるを得ないし。
仕方なく、彼女から手を離してベッドを降りた。
こういうとき男の生理現象は最悪だ。
下品だ。下劣だ。
シャワールームに入るなり自分で自分を慰めた。
最低だ。
莫迦だし。



戻ると、ちょうどライトさんは脱いだワンピースを着ているところだった。
チラッと見えた下着は淹れたてのココアみたいな色で、肌と髪の色にすごく合っていた。

「ああ、帰りはこっちからで良い。」

わざわざ手ずから僕の靴を出してくれた。

「じゃあ、気をつけてな。」
「あの……、僕また近いうちに此処に―――」

そう言いかけたとき。

「もう此処へは来るな。」

信じられない言葉を聞いた気がする。

「もう…、此処へは来るんじゃない。」

聞こえない。
聞きたくない。
言葉が耳に入ってこない。
開いた口から、暗い穴と赤い舌がのぞいてる。
見ていると吸い込まれそうだ。
でもそこから出て来るのは……、拒絶の言葉?

「あ……その…ああいうのが、早すぎるっていうなら……我慢します。……わかってます。だから、ここに来ても…………いいでしょう?」

ついさっきまでこの人の孤独の心配をしていたのに、結局は自分がこの人に会いたいだけなんだな。
他の場所でもいいけど、出来れば二人だけの空間が欲しい。

「だめだと言っている。聞き分けられないなら今後一切会わない。」

そんな。
そんなのは耐えられない。
やっぱりあんな事しても全然僕の物にはならない。もしかして、むしろ迷惑がられてたんだろうか。

「じゃあ……ここに来るのも我慢します。でも……。」

上手く言えそうにない。

「今は我慢して、僕がもっと成長したら……そうしたら、付き合う相手として見てもらえますか。」

何年経てばいいのかわからないけど。

「将来のことはわからない。だが………お前はその気持ちを持ち続けたままで、本当に我慢なんか出来るのか?」

あなたがそうしろと言うなら。

「私は………お前に対して恋愛感情はない。」

…………咽の奥が痛い。
目も変だ。

「それに私の方は我慢しなければならない義務はない。お前が大人になる前に誰かと付き合うかもしれないし、まあ寝る相手くらい作るだろう。」

どうしても、僕ではだめだと?

「あなたは……優しかったり冷たかったり、いつも意見や態度をころころ変えて………、振り回される人間の事なんか………。」

泣き声になってる。ほんとに、情けない自分。

「そうだな、その通りだ。これ以上傍に居ればもっと苦しませるだろう。だからもう…………。」

だから?だからって何?その先を言わないで。

「終わりにしよう。」

涙が溢れ出た。
何か抗議をしようにも、咽が音を出してくれない。
そのまま軽く胸を押され、地面にへたり込んだ拍子に彼女はすっと中へ入ってしまい、扉や窓の全てが強固な壁に覆われて内部の様子すら窺えなくなった。










月並みだけど、死にたいと思った。
あんなに必死に戦って生き延びたのに、つい昨日は生きてて良かったと思ったのに、もう死にたいなんて。
死にたいと思いながら、父の元へ帰った。
普通に帰って来れるのが不思議だ。
そういうもんかな。

「父さん……ごめん。」

まともに顔が見れない。

「ああ、お帰り。疲れは取れたか?」
「えっ、無断外泊…怒ってないの?」
「無断?ああ、まあそうだが、お前が疲れて寝てしまったからと、スノウ君の使いの子が泊まる旨の伝言を持って来たぞ。」

スノウ?なんか気を廻してくれたんだ。
あれ、昨日店には居なかったのになんで?ああ、セラさん経由かな。
あの人達とも、ちょっと会いづらくなっちゃったな。
全部僕が悪いんだ。
結局僕の片想いで、暴走して嫌な思いさせたんだろうな。
あきらめないと……。
これから父さんと新しい暮らしを始めなくちゃいけないし。
だめだ、今日は何にも出来そうにない。

「父さん、やっぱり少し疲れてるから……休ませて。明日には何でも手伝うから。」
「ん?昨日は強行軍だったからな。じゃあ明日はがんばってもらうぞ。」
「うん。」

明日でも回復出来そうにないけど……。
でも少しずつ、忘れるようにしないと。
あの人のこと。
出来るだろうか。
忘れるなんて。
出来なくても、そう努力しないといけないのか。
忘れてしまえれば楽だけど………。





                                 〜〜FIN



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