APHRODISIAC



衝動 2



卑怯だと思う。いいや、やっぱり小賢しい……んだろうな。
在宅の確認だけして、家へ行っていいかの返答を待たずにノラの店を出た。
冥碑までは、店の裏の崖に階段が切ってあって直接行ける。本当にすぐに着くはずだ。すぐに。

大平原の反対端、いつもチョコボの居た辺り……。ああ、まだベヒーモスがうろついてる。あの人のことだ、きっと番犬代わりだとか言うに違いない。
いまはチョコボは居ない。この辺りに……。
崖に近寄ったところで、突然視界に異変が起こった。いつの間にか生えてたツタの向こうに階段が見える。ツタと立体映像で隠してあったらしい。何か広いスペースがある。飛空挺の格納庫だろうか。

ちょっと急ぎすぎたな。階段を数段上っただけで心臓がバクバクいってる。
違う。緊張してるんだ。
急に不安になってきた。
あんな約束、冗談だったと言われるかもしれない。
約束を破るような人じゃないと思うけど、内容が内容だし。
いや、あんな事までしたんだから……。
でも、あれは僕が勝手に……。
妙な汗が出てきた。どうしよう。
階段を上りきってしまった。このドアが家の入り口?……じゃあないか、インターホンとかないし。
この先に……。
ドアをスライドさせた。

これが家、なのか?なんだかずいぶん不恰好だ。いびつな半円形のドーム、と言えばいいのかな。表面に草を生えさせている。これも軍から払い下げてもらったらしいけど、ああ、ほんとはもっとちゃんと地面に埋め込むタイプなのかな。
チョコボの声がする。奥のほうに、これは普通の小屋が建てられてる。いまはあそこで飼われているんだな。
どうしよう。来てもいいとは言ってないって、つき帰されるかも。
適当にあしらわれて、おでこにちゅーとかで誤魔化されたりして。
いまさらそれはないですよね、ライトさん。
ドアの前まで来た。
中に、入れてもらえるだろうか。
入れてほしい。
中に。

意を決して呼び鈴を鳴らしたけど、拒まれるようなことはなくあっさり案内された。
ただし、玄関を開けてもらってすぐ対面というわけにはいかないようで、なんだか手順が必要らしい。
指定の場所に靴を入れて少し進むと、いきなり前後の扉が閉まってちょっとびっくりした。
パシュッという音がして上から強い風を浴びせられる。
その先は……、ロッカールームみたいだ。とてもじゃないけど、一人暮らしの女の人の家に来たという雰囲気じゃない。
妙に気分が殺がれて、落ち着いた気がする。普通に話せそうだ。
今度こそ、対面、かな?


「ああ、面倒な事させてすまないな。」

久しぶりに聞いた声。
久しぶりに会う……。

「ライトさん。こっちこそ、いきなり来てすいません。」

和やかな顔だ。怒ってはいないみたい。
それに、なんだか女らしい白いワンピースを着てる。
下着も白かな。
いや……、はい、僕は馬鹿です。
僕が心の中で恥じているのをよそに、ライトさんはこの建物について掻い摘んで話してくれた。
それにしても随分大きい施設みたいなのに、ここにベッドやテーブルを置いてるってことはこの部屋しか使ってないのかな。隣はキッチンで……、あれ、あの扉から玄関が透けて見える。

「ああ、あの扉は今はあまり使ってないんだ。前に成長の遅いオチューの種を持ち込んでしまってな。それ以来、向こうを通ってエアシャワーの上に普通のシャワーまで浴びて入るようにしてるんだ。客人にそこまではさせられないがな。」

来ていきなりシャワー……、それは願ったり叶ったりなんですけど。
あ、あの写真立て。

「ライトさん、この写真……。」

ヲルバ郷にあったあの二人の写真だ。持って来たんだ。

「スノウが何故か異様にあそこに執着してな。とうとうノラが占拠してしまったよ。あいつにあんな政治力があったとはな。冗談抜きでそのうちノラという小国家が出来るかもな。」

ライトさんがスノウを褒めるなんて。いや彼女の性格からして単に事実を言っているだけなんだろうけど……。
みんな、着実に何かを築き上げていってるんだな。
僕以外は。
また、僕だけが子供で歯がゆい気持ちになる。

「ライトさんは、トレジャーハンターでしたっけ。なんかカッコいいですね。」
「そうか?軍の下請け業者として登録するのに業者名が必要だからと、向こうに適当に付けられたんだ。ノラだって、魔獣ハンターだったかにされてたぞ。」
「今は主に、どんなことをしているんです?」
「別に、あっちこっちを駆け回るだけさ。ああ、そういえば上を開けたままだったな。」

ライトさんはそう言いながら玄関側にある螺旋階段を上っていった。
そこは、広いサンルームみたいだった。
もうかなり暗い。
夕日の残滓が微かに差し込んでいるだけ。
いつも、いままでずっとここに一人で?
こんなところで、たった一人で暮らすなんて。
淋しくはないんだろうか。そんな感情とは無縁だとでも言うだろうか。
そうは見えない。
影が濃さを増してそう見えるだけか。
勘違いかもしれないけど、なんだか今すぐ抱き締めてあげなきゃいけないような気さえする。
あと数歩の距離。

「ああ、ほらお前、すっかり日が暮れてしまったじゃないか。」

ええ、狙ってきたんですよ。



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