Stan L 4
なぜなんだろう。
どうしてこうなった?
どこが分岐点だった?
ホープと寝たから?
ホープに出会ったから?
ルシになったから?
妹がルシにされたから?
どこからこういうルートになったんだ?
なんで………。
ホープはああ言ったが、父親の許に戻ったら気が変わってここには来ないかも知れない。
それならそれでいい。
父と子2人きりになってしまったのだから互いを大切にしてそのまま暮らせばいい。
心配されるほど私は孤独なわけではないし。
それは私が特定の寂しい気持ちを持っているのとはまた別の話であるし。
私は冷めたお茶を口に運び、時計を見た。
ぼんやりしすぎていたようだ。
私の子供以前に、うちはもう幼い者達であふれかえっている。
私はボトムをカーゴパンツに履き替えて、チョコボ舎に向かった。
大人のチョコボも雛鳥達も待ちかねたようで、私の姿を見るなり大騒ぎとなった。
「よしよし、遅くなってすまないな。ほら、お前達はまた適当に遊んで来い。」
チョコボの成鳥たちは、家の近くでなら放してしまっても勝手に帰ってくるほど慣れてきている。
「チビどもは今日も水辺へお散歩だぞ。」
ヒナ達はさらに懐いているが、それはそれでやっかいだ。
皆で団子になって足元に纏わり着くから、僅かな距離を移動するだけで一苦労だし、かと思うとちょっとしたことに好奇心を覚えて、すぐにはぐれてしまう。
これにまた更に人間の赤ん坊が加わるのか………。
ホープの顔が浮かんだ。
なんだか胸がざわつく。
居てくれれば、確かに助かる………とは思う。
しかし………いいんだろうか、それで。
まだ外の崖を降りられないヒナ達を階段へ誘導すると、毎度のことだが未だよちよちといった歩みのチョコボ達は、階段を下りるというより転げ落ちていくという表現の方がぴったりだ。
始めの頃は心配もしたが、元来丈夫なのと体重が軽いのとで落ちたところでピンピンしている。
野生動物はこうでなくてはな。
おなじみの黄色い雪崩を見納めて、お次は捕食者のうろつく外界へ。
剣を捨てたわけではないが、あまり敵に接近されたくないためライフルを持つようになった。
チョコボ達にも少しづつ破裂音に慣らしてきている。
そうでなければ、撃った途端に散りじりに逃げ出してしまったり、悪くすればショック死だ。それでは困る。
それに将来騎乗したまま発砲することが出来るように育てねばならない。
趣味で飼っている訳ではないのだ。
食用ではないが使役するために飼っている。
私は、以前ホープがファルシと人間の関係を飼い主とペットではないかと言っていたのを思い出した。
当時の私は真実を知らなかったが、それでも、例え可愛がられているのだとしても『飼われている』ということに愕然とし、嫌悪を催した。
そのうえ、それどころか全員が生贄として捧げられると判ったとき、私と仲間達は死に物狂いで抵抗したのだ。
ホープも、あの2人も。
なのにいま、自分は別の生き物を飼っている。
食べるためではないから愛情を注いではいるが、成長して一人前になれば必然的に危ない場所を連れまわす事になるし、その間に怪我をしたり命を落とす事だってあるだろう。
ファルシも勝手だったが、人間も充分自分勝手だ。
食用にされてないのは、単に飼育されてる数が少ないからに過ぎない。
数の問題なのだ。
繁殖の為に食いつぶしてはいけないという事もあるが、すぐに数えられるような数では情が移ってしまう。
もっと個体の区別が付かないほど圧倒的な数でないと、中々絞められたものではない。
ファルシに情が存在するのかわからないが、彼らにとっても同じ心理だったのだろうか。
しかしおかしな点もある。
バルトアンデルスなどは、はじめから人間を生贄にするためにコクーンを造った訳ではないらしいということだ。
ならばなぜ、人間を沢山殺すと神が現れるという結論になるのだ?
呼び出さなければいけないような神のことを、一体何で知ったのか。
口伝でもあるのか。
神の呼び出し方を記した文献でもあったのか。
ファルシも人間も神が創ったものなら、神にとって必要な物であるということか?
だから大事な『人間』を殺せば、慌てて神がお出ましになるとでもいうのだろうか。
そうなるであろうという、確証を何か持っていたんだろうか。
じつは破れかぶれでやり始めた人間との無理心中だったんじゃないのか。
もしかするとそれすらも、何か抗い難い大いなる意思によるもの、だったり………。
この子……。
これは本当に私達の意思で作った子なんだろうか。
普通の精神状態ではなかったとはいえ……、いやあの年頃なら性のことが心身を支配しているといっても過言ではないくらいなのだが、じゃあ私のほうは?
やっぱりこれは考えすぎなんだろうか。
戻ってきたホープに話したら笑われるだろうか。
戻ってくるのか。
戻ってきてほしいのか?
わからない。
どうするか決めていることはあっても、どうしたいかとなると全くわからない。
自分のことなのに。
元からこういう傾向ではあったけれど、いまは妊婦特有の不安感に襲われているからだろうか。
疑問ばかりだ。
全部終わったように思っても解決出来た問題は少ない気がする。
無理も無い。私達コクーン生まれの人間は、あまりにも何も知らなさすぎたのだ。
ファルシのこと。
人間のこと。
下界のこと。
太陽がまぶしいということ。
夜は暗いということ。
大地と云う言葉の真の意味。
皆が皆、一つの世界の終わりを見て、経験したことの無い夜の闇に落とされて……、きっと誰かと抱き合いたかったんだろう。
怖くて寂しくて、一人ではいられなかったんだろう。
それなら……、やっぱり私達も同じだったのかもしれない。
ルシなんて関係ない、なんの特別なことも無い、ただ普通の男女の営みをしただけ。
目の前で幼いもの達が思い思いに遊び耽っている。
無邪気とは正にこの事だな。
私もきっと小さい頃はそうっだったのだろうが思い出せない。
この子らも大人になってしまえばそうそう遊び呆けるということも無いだろう。
生まれて、育って、また生んで………。
繰り返す命の流れ。
私はまた、山陰に覗くタイタンの姿を目で追った。