PASSION



passion 4


何かを積み上げていったとする。
少しづつ、ずれが生じてしまい重心が保てなくなってくると、当然行き詰ってしまう。
どこかを修正しようとすると、別のどこかがずれてきて、それ以上どうにも出来なくなる。
そうなったらもう…、いっそのこと壊してしまうがいいのだ。
壊して、バラバラにして、再構築する。
歪んだまま膠着してた私の思考も、さっきバラバラにされた。
さっぱりするじゃないか。
解放された気分だ。
ホープが呼んでいる。うるさいな。叩くな。

「聞こえている。」
「ああ、良かった。気絶しちゃったのかと思いましたよ。」

そこまでじゃない、そう言うと、暗闇で表情は判らなかったが少し落胆したかのような気配が伝わってきた。気を失うほどの快楽を自分がもたらしたと思いたかったのだろうが、流石にそれは無理だ。見上げると、空から降り注ぐ星々の光が、小さな棘となって私の皮膚を刺す。
咎めているのか。
ばかばかしい。これは普段外気に晒されることのない部分が、慣れない夜気を浴びて敏感になっているだけだ。
遠くにコクーンが浮かんでいる。生まれ育った、帰りたい筈の故郷なのに、なぜか異様なまでに禍々しく見える。今の私達がコクーンの敵だからか。それとも、あれは元からああだったのか。
何かうわ言のようなことを言ったかも知れない。
ホープが何か言ってた気がする。

「僕、本当にあなたが好きです。」

意味が、解らなかった。
よく聞いていなかったのだ。そんな話をしていたのか?
お前はヴァニラと仲良さげにしていたじゃないか。
あの時、抱き締めたりしたのが悪かったのか。あれのせいで、向こうが駄目でも私ならどうにかなると、そう思ってここへ来たんじゃないのか。
事実、どうにかなったわけだ。
ホープは否定してかかったが、そもそもこれ位の子供が、やらせてくれた相手に夢中になるのは当たり前の事か。
また、面倒になってきてしまってホープに背を向けた。
体を捻ったときに、ぺふ、とかいう妙な音をたててドロリとしたものが流れ出て、足の間を伝い落ちていく。
再び、いや三度押さえ付けられた。
もうこんなに溢れ出て、注ぎ込む余地など無いだろうに。
細い指が私の亀裂を探り出そうとして蠢いている。終わったばかりで、過敏になっていて少し痛い。
腰を引き上げられた。まるでもう、自分のものだと云わんばかりだ。男はすぐこうなる。
だから……。
だから嫌なんだ。

「‥んっ‥ああっ‥‥」

ああ、充血しているせいで、痛みと快感がない交ぜになって、いやだ。
嫌なんだ。
いやだいやだ云うのは私が女だからか。どうして女はこうなるんだ。

「‥ああ、ライトさん、もう一度‥‥」

悦に入った声がする。完全に男だ。しかし同時に、子供っぽさも感じる。
私は……。
私は…、私なんて、こんな下界に落とされて、地面を這い蹲らされて、…こんな年端も行かない少年に体を貪られて……。

「‥はっ‥ああっ‥」

…違う。
違う?何が違うんだ。私なんて、少し筋がいいと思われたくらいで、何かのプロになった様なつもりになって……。
ほらまたおかしくなってきた。
ああでもこれが現実じゃないか。こいつは私に、現実を突きつけに来たんだろ。
ホープ。
お前は悪魔だ。
こんなに私は被虐を好む性質だったろうか。いやこれは自虐か。悪魔を受け入れたんだろ。
うつ伏せのせいで余計苦しい。
息ができないじゃないか。
どうしてこんな。

「‥あッ‥ああッ!」

己の感極まった叫び……。
もう我慢は止めだ。後ろでホープがうろたえている。知るか。勝手に困ってろ。もう、どうなってもいい。どうだっていいんだ。
まさか私に冷静な儘でいてほしかったわけじゃないだろ?それなら相当のバカだ。
私を暴きに来たんだから、これで正解なんだ。
足の裏が熱くなってきた。
後頭部が何かに掴まれたように鈍く引き攣れる。
もう既に、声も出ないほど苦しい。
呼吸もできない。
意識が……世界が閉じる……。



………………なんにせよ、すっきりした。
体が軽くなったような爽快感がある。しかし、実際に体を動かそうとすると、腕を上げることも出来ないほど力が入らない。
腰周りから、膝の辺りまで精液まみれだ。後始末のことを考えるとうんざりする。
近くにいてほしくない。

「少し休んだら、戻れ。」
「え…、でも、あの…。」

ついさっきまで、我が物顔、いや顔は見えなかったがそういう態度だったくせに、もう元のもじもじした少年に戻っている。
幼いんだ。
私が大声を上げたせいで、バツが悪いとでもいいたいのか。あれはお前が主犯だろうが。だが年齢差で私が有罪かな。それ以前に、発見しだい処刑されるような身分で、淫行罪で逮捕はあるまい。
他の連中だって、私が声を上げたのは珍しいだろうが説教するような立場の者はいない。

「大丈夫だ、みんな大人だ。お前をからかったりしない。」

実際には、本当に大人といえるのは一人しかいないが。

「あの…、まだ、その……。」

なんだ、まだ何かあるのか。

「まだ………、キスをしてないなって。」

「キス?」

わかってはいた。だから渇いて仕方なかった。自分からしてしまおうかとも思ったけれど、躊躇いがあった。

「したいのか?」
「…はい、したいです。」
「…………駄目だ。」

もう醒めたんだ。もうそういう気分じゃない。気持ちがそこに戻れない。

「この世に未練を残しておけ。」

これはあれだ、動物の目の前にエサをぶら下げるあれだ。

「全部片付いたら、してもいい。約束する。」

適当なことを言って、ひどい女だな、私は。
それでも少年は嬉しいらしい。そういう空気が伝わってくる。
もしかしたら、私の方がお前にとっては悪魔なのかもしれない。
いや、お前が私をどう思っているかなんてどうでもいいんだ。
悪いな。
さっきまでの私はもういない。
やってる最中なんて皆おかしくなるもんだ。男だろうと女だろうと。
お前を守ることは忘れてはいない。
妹も取り戻して、この身に刻まれた呪いも消し去ってみせる。
私は誰の支配も受けない。
押し付けられた運命なんて、跳ね除けてやる。
立ち塞がるものは、薙ぎ払い、斬り倒して、自分の思うが儘に生き抜いてみせる。

必ずだ。



                                     〜Fin


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