すいぶんボーっとしていた気がする。
いや、実際はそんな事なかったんだろうけど、煩いというより不愉快だなぁという気持ちが先にきて、何が起きたのかすぐには把握できなかった。
窓が防護壁で閉じられ、警報が鳴り響いて異常を知らせていたというのに。
しかしそこは元軍人さん。
ライトさんはすばやく起き上がって部屋を出て行こうとしていた。
いつになくドタドタともたつく彼女を見ながら、ああベッドが広すぎると降りるのも大変そうだ、なんて場違いな事をぼうっと考えてた。
当然そんな場合じゃない。
すぐに追いかけてコントロールルームへ駆け込んだ。
「カメラがやられたらしい。」
見れば所々に真黒な画面が確認できる。
「他のセンサーとかは……。」
「無い。……売っ払ってしまった。」
えっ…。なんだか色々装備が少ないような気がして、どうもおかしいとは思ってたけど、売り払ってたなんて。
「そんなに逼迫してたんですか?言ってくれれば僕が―――。」
「違う。私よりも必要としている者が居る、そう思ったからだ。」
なるほど、ライトさんらしいな。
たぶん自分ひとりの身を守る事くらい簡単だと思っていたんだろう。
子供が出来るなんて……、そりゃあ思ってないよな。
しかしこのままボケっとしてるわけにはいかない。
ここで動けるのは僕だけなんだ。
「僕、ちょっと外の様子見てきます。」
「何をバカなこと言ってる!大体そういうのは大事に発展するんだ!」
「でも、外の事がわからないと、救援呼ぶかどうかも判断つかないし。大丈夫、ちょっとですから。」
「待てこら!」
待てと言われて待つわけはない。
そうでなくても、たぶん僕は正常な判断力を失っていたんだと思う。皮肉にも誰かさんに鍛え上げられたお蔭か、ほとんど反射的に飛び出していた。
手にはしっかりショットガンやゴーグル、予備の弾丸やナイフを装着したベルトも持ってる。
けど、とんでもない事に気づいた。
僕はバスローブのままだ。
機敏なのか鈍くさいのかわからない。
そのうえ忘れず装備を掴んできたのは良いが、なんと下着を履いてない。
これは……今まで味わった事のない心細さだ。
間抜けすぎる。
これについてだけは、ここの周りに人が全くいない事を心底良かったと思う。
動き回ったらさぞみっともない姿を晒すことになるだろう。
特にあの人には見られたくない。
けどそこは心配しなくとも、たぶん外までは追いかけてこない。それはわかっていた。
何が大切か、誰を守るべきか、あの人だってちゃんと分かってる。
釈然としないにしてもだ。
しかしこれは本当に間抜けだ。
ベストを着るようにベルトを装着し、ゴーグルもかけてみたけど、野外で真っ白なバスローブを着て暗視鏡を覗くなんてバカの極みだ。
あの人の騎士や王子様になれる日は遠いな。
一体いつになったら……。
…‥…‥…‥‥
何か、かすかにパタパタと聞こえてきて、とっさにガルキマセラやインプのようなものを想定した。
この辺りには普段はいない。崖下にベヒーモスがいるせいだ。
ここに住み始めてから今まで、山の方から降りてきたというのを見たことは無い。
大体あいつらは羽っぽいものを持っていても大して高く飛べないし、俊敏な動きも出来ないんだ。
冒険心でここまで来たとは思えないな。
カメラがいくつも壊されたのを考えると、どうも狙ってやってるみたいだし。
狙って………?
まずい。
身を隠してあたりを探ってる場合じゃない。
だいたい白いバスローブなんかで身を隠すも何もないだから。
襲撃してきたのがあの手の連中なら、うかうかしていると別のモンスターを召喚されてしまう。
早くみつけて殺ったほうがいい。
手遅れにならないうちに。
早く。
何処にいる。
「いた!」
やっぱり小鬼系だ。何かははっきりしないけど、とりあえずそれはいい。
てきとうな狙いで撃ちまくった。
スピードが勝負だ。
腹の辺りで手榴弾がガチャガチャいっていたけど、流石にこんな家の間近で使う気にはなれない。
そうも言っていられなくなったらどうしようとは思うけど。
早く、速く。
呼ばれたら終わりだ。
もうルシじゃないことが激しく恨めしい。
こんなときだけファルシを頼みの綱にしてしまう。
こっちの望みだけ聞いてくれるファルシなんて居るわけないのに。
「もう殺った……か?」
自分の周りからは、あの小うるさい羽音は消えている。
ギアがあるとはいえ、生身で魔法を食らう恐怖に鳥肌が立っていた。
下半身が無防備すぎるせいもある。
結局手榴弾も幾つか使ってしまった。
うちは頑丈だから心配することはない。元々気分の問題だっただけだし。
あとはチョコボの様子を見て戻ろう。
向こうもセキュリティが働いてるはずだけど、驚いて動揺してるかもしれない。
けど僕は一歩もそこから踏み出せなかった。
迫り来る威圧感。
まさか……、もう?
よくあるパターン。
既に強敵が召喚されていた。