疲れたな。

でも休んでる場合じゃない。早く帰らないと。

日の暮れたヤシャス山。こんなところに一人でいるなんて狂気の沙汰だ。
ここでは、誰かが偶然通りかかって助けてくれることなんてありえない。
第一、ただ人が何人か現れたところでどうにもならない。
飛空艇で回収してくれるっていうなら別だけど。

「はあ……。」

ため息が思わず漏れる。
甘えたことを考えてるわけにはいかないのに。

元々一人でやって来たんだから、一人で解決しないと。
一人で何も出来ないなら、あの人の支えにならないじゃないか。

大丈夫、助けを呼ぶほどの怪我じゃない。
大丈夫。ひとりでも。



クェ……。クェクェ………。

ああ……、一人でも孤独ではないんだった。

隣でチョコボが怯えながら歩いている。

いつものコースを散策中に、何かに足を取られバランスを崩して斜面を滑り落ちてしまった。
僕はかすり傷しかなかったけど、チョコボは足首を捻ったみたいだった。
少しだけど出血もしている。
僕が乗ってなければ、無事だったかもしれない。
それ以前に野生のままなら、嫌いなヤシャス山になんて来ることはなかったろうに。

人間のわがままでこんな目に合わせてしまった。
その人間とはつまり僕なんだけど。

「ごめんね、疲れたでしょ。」

こうなったのは僕のせい。

もっと周囲に気を配っていたら。
もっと僕がバランスを取るのが上手ければ。

僕が未熟だから。



いつまで同じことを言っているんだろう。
しょうがないじゃないか。

ぼくは力もないし、何かの資格が取れる歳でもない。
チョコボの調教くらいしか出来ることないんだから、それをするしかないじゃないか。

何のためにあの人のそばにいるんだ?

愛し合ってるというなら、そばに居るだけでいいって事になるかもしれない。
けど、そうだとしても男と女の差があるんだし、せめて目の前のことを片付けなきゃ。

「大丈夫だよ。魔物は襲ってこないから、焦らないでゆっくり帰ろう。」

ほんとは早く帰りたくて仕方ないけど、臆病なチョコボを安心させないと。
魔物が襲ってこないのは、コスト度外視で強化してもらったスニークスモークが効いてる今だけだ。
念のために沢山持って来てはいるけど、帰り着くまでもつかどうかわからない。

不思議なことに、疲れてはいても気持ちは落ち着いている。
初めてここに来た時より、ずっと弱い、魔法も召喚も使えないただの人間。
それが今の僕なのに。

慣れ、なのかな。
でもそれで油断してこの有様なんだっけ。

ああ、早く帰って寝ているあの人の隣にすべり込みたい……。
そう思った刹那、足元から逆手に撫で上げられるようなぞわぞわとした感覚に襲われた。

一瞬の欲情。

振り切るまでもなく、疲労感に打ち消されてしまった。

やっぱり早く帰りたいな………。

ライトさん………。