ねがい



ねがい 4


サラサラだった肌が、少し汗ばんでしっとりと吸い付くようだ。
こんなふうに、寄り添って触れ合っていられるなんて…なんだか信じられない。
これって大人の男女なら普通のことなんだよね?
みんな…みんな……、じゃあ…父さんや、母さんも…こんな?
母さん…、ごめんなさい。さっきまで頭の隅の隅のずうぅっと奥のほうに追いやっていた罪悪感が急に頭をもたげる。
この人を母親代わりにしているわけじゃない。だってぜんぜん似てないし。
なんていうか…、ああ僕、この人に認められたかったんだな…。
憧れてて、自分もあんな風になりたい、近付きたい、いつも一緒に居たいって…。あれ、これ女の人に対する気持ちとしてはおかしいかな。こういう『好き』って、やっぱり『愛』とは云えないんだろうな。
でも、『守りたい』なら?
これなら、ただ憧れや尊敬とは違う、愛だと云えるんだろうか。
いや、守りたい、じゃ駄目だろう。守る、だよな普通は。ああ、自分が情けない。
なにしろこの人が先に僕を守る宣言をしてくれたんだ。それは単に僕が子供で、自分が年かさだったからに過ぎないんだろうけど。
ああ、そんな人を襲ったりしてまた自己嫌悪。
何か言ってほしい。静か過ぎないか。
………変だ。
まさか………、いや息はしてる。当たり前か。
寝ちゃった?寝てるの?もしかして気を失ってる?
少しあわてて、小さくライトさんと呼びかけながら頬を軽くピタピタ叩いた。

「……聞こえている。」

気だるい声。

「あ、良かった。気絶しちゃってるのかと思いましたよ。」
「……そこまでじゃない。」

ほっとしたけど、同時に少しがっかり。失神するほど良かった、なんて無理に決まってるよな。

「星が………。」
「え?ああ…、綺麗ですね。凄い。」

本当に凄い。満天の星空って、言葉は知っていたけどコクーンの映し出された映像とはスケールが全然違う。こんなに広い空も、あんなに高い星も、ここに来て初めて知った。ずっと見上げてると、逆にこっちが見られているような感覚に陥る。背中に感じてた罪悪感て、もしかして星々の視線だったんじゃないかと。
星が…の後、また彼女は黙り込んでしまった。何て言いたかったんだろう。言いたい事、言ってほしい。
言いたい事…。

「……ライトさん、僕、あなたが本当に好きです。」

あれれ?やけにあっさり言えた。今まで思い悩んできたのに。といっても、たった数日だけど。出会って数日でこうなるまで思い詰めるなんて、やっぱり僕おかしいのかな。

「無理に言い訳しなくてもいい。」
「…は?」

な…っ、言えても伝わらないなんて。

「え……、どうしてそうなるんです?言い訳じゃないですよ。」

世の中、思い通りにいかないとはよく云うけれど。なんだこの展開は。

「ヴァニラに振られたからこっちに来たんじゃないのか。」
「……そんな、いつも仲良くしてるからその人が好きだなんて、小学生や幼稚園児じゃあるまいし」
「たいして変わらんだろ。」
「それなら僕とライトさんだってたいして変わらないですよ。」

だいたい他の人に振られたからライトさんの方に行くって思考がありえない。どんな命知らずだそれは。
彼女は軽く溜め息のようなものを漏らして僕に背を向けた。
その瞬間、なぜかつい背中を取ってしまった。がつがつし過ぎてると思われたかもしれない。本当にそんなつもりじゃなかったんだけど、なんだか反射的に……、これは言い訳かもしれないな。
彼女の方は一度押し返してきただけで、すぐにそのままうつ伏せになった。
いま、どういう気持ちなんだろう。どんな気持ちで僕を受け入れたんだろう。
僕は…、後衛にいることが多いから、いつもこの背中を見ている。
手が届くとは、思わなかったな……。
僕のせいでお尻の下の辺がベッタベタだ。下品だけど、ぐちょぐちょって的確な表現だったんだな。
自分でも呆れるけど、またもや欲望が湧き上がってきた。どうかしてるんじゃないのか。もう二度と、こんなこと出来ないかも知れないからか………。
上下が逆さまになったら、場所がよくわからなくなった。触っているのによくわからない。腰を抱きかかえて少し上げさせる。だんだん大胆になってきてないか、僕。
何度でも入れたい。何度でも入りたい。いつでも包み込んでほしい。連れて行って…、あなたの世界へ。

「‥うん‥っあ‥っ」
「ああ‥ライトさん‥‥もう一度‥」

もう一度あの声が聞きたい。気持ちいい、とか、最高だ、とか、言ってくれないだろうか。
言わないか。僕の想像力が乏しいんだな。

「‥はっ‥あっ‥」

そうだ。その声。その声に、埋もれていたい。

「‥‥‥あッ、ああッ」
「えっ、ちょっ‥‥」

いきなり本当の叫び声になった。そういえば口を塞いでない。うつ伏せだとやり難いのかな。
何か…、何かで…。

「やめるな!つづけろ!」

ええぇっ?そんな……。
だってこれじゃ皆に聞こえちゃう。アラート代わりにしてたチョコボまで騒ぎ始めた。
どうしよう…。どうしようったって、どうしようもないか。
もうなんでもいいや。聞かれてもいい。見られてもいい。
このまま死んだっていい。いっそこのまま…。クリスタルになる時も、繋がったままがいい。誰に見られても、笑われてもいいから…。このままずっと……。



最高の言葉は聴けなかった。
どうしてこんなに死にそうに苦しくなるのに、何度もしたくなるんだろう。
彼女も肩で息をしている。

「…少し休んだら戻れ。」
「え…、でも、あの…。」
「大丈夫だ。みんな大人だ、お前をからかったりしない。」

みんな大人…。僕以外は。

「あの…、まだ…その…。」

傍を離れたくない。

「まだ……。」
「まだ?」
「まだ………、キスをしてないなって。」

いつしていいのか判らなくて、まごまごしてたら終わってしまった。

「キス?…………したいのか?」
「…はい。したいです。」
「…………だめだ。」

えっ、そんな…。

「この世に未練を残しておけ。」

ええっと、それって…、それって、つまり…。

「あの…、それじゃあ、色々と…全部終わったら…。」
「全部片付いたら、してもいい。約束する。」

なんて…、なんて表現していいか解らないほど嬉しい。ああそうか、これが希望ってやつなんだな。
これがこの人の優しさ。僕に生きる希望を残してくれた。
この人となら、何処へでも行ける。
もう何も怖くない。
必ず守り抜いてみせる。
ずっと、ずっと、永遠でも。


                                    Fin〜


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