最初は警告音が五月蝿すぎると思った。

これじゃ、生まれてきた子供が驚くじゃないか、と。
私の中にもちゃんと “母親” が形成されてきたらしい。もっともそういう事態に陥ったら、うるさいなどと言っている暇もないだろう。

しかし、これは一体何事か。
今までも窓の防護壁が下りることはあったが、警報までもが鳴るようなことはなかった。
ここら辺は大平原の中でも穏やかな地方なのに。

あれこれと取りとめもない事が次々と頭に浮かんできたが、体は反射的に走り出していた。
必要以上にでかいベッドの上で、多少もたもたしたのが少し苛ついたけれど。

とにかく、すぐさまコントロールルームに向かったわけだが、たどり着いた私を出迎えたのは黒く沈黙したモニター達だった。

こうなると外の様子が分からない。
ここは大層な装備を持っていそうな建物だが、実は最低限のものしかないんだ。
必要ないと思って売ってしまった。

追いついてきたホープもそのことについて疑問を持っていたらしい。
当たり前だな。だが訝しく思っていたのなら早く聞けばいいものを。

ホープが呆れるのも無理はないが、私の性格は知っているだろう。
嫌なら出て行くがいい。

「僕、ちょっと外の様子見てきます。」

なんだと?
口に出してもいない“出てけ”という言葉を悟ったわけでもないだろうに、外の様子を見に行くだと?

「何をバカなこと言ってる!大体そういうのは大事に発展するんだ!」
「でも、外の事がわからないと、救援呼ぶかどうかも判断つかないし。大丈夫、ちょっとですから。」
「待てこら!」

追いかける。
引きとめようと手を伸ばす。

取り逃がすはずないんだ、かつての私なら。
だが今は事情が違う。

身軽な少年と鈍重な妊婦。

恨めしいと、心底思った。

目の前で閉じられるドア。
もちろん内側から開けることなど容易い。

しかし今の私には出来ない。
簡単なことなのに。

「あいつ……、あんな格好で。」

私の後から駆けつけたのを横目で見たとき、ちらりとバスローブの袷から股間がのぞいたのが見えていた。
あいつはあのまま出て行ったから、当然そのまま。下着もつけていない。

私の立場が妻だろうと母だろうと姉だろうと、出る前にパンツぐらい履かせてやるべきだったろうな。
滑稽だが。

こんなことを考えてる場合ではない。
コントロールルームへ戻って、まだ生きているモニタを探した。

ろくに残ってない。
全滅とまではいかないが、さっきより減っている。

監視カメラは全て隠して設置してあるわけではないにしろ、なぜこうも的確につぶしていけるのか。
外に居るのはどんな敵だ。

通信機にコールをかけてもホープの応答はなかった。
それもそのはず、位置情報を調べたら家の中だ。ついさっきまでシャワーを浴びていたのだから、携帯していないのは無理もない。

パンツも履いていないしな……。

だがしかし、しっかりと装備を抱えて行ったのは確認できた。たとえ下がアレでも。
ショットガンにチェストリグ、暗視ゴーグルも持ち出している。

外を明るく照らすことは出来なくはないが、カメラを潰されている今の状況では、照明器具も同じように破壊されるだろう。

チェストリグというのは、弾倉や救護品など入れたポーチを胴回りに取り付けたベストのようなもの。
簡単にいえば小さなリュックを前側に装備してると考えていい。

そうだ確か……。

確かゴーグルにカメラが付いていて、こちらからも外の様子を見られるはずだ。
通信だって出来る。

ただ何も分からず待つだけではない、状況を把握できれば私から指示を出す事だって出来る。
そのはずだった。

画面の隅々まで目を通しても接続方法どころか呼び出し方もわからない。
いざという時にこの体たらく。

「ええい!どれだ!どこをどうする!」

愚かだ。
そういう機能があったことは思い出しても、使い方を把握してなかった。

いまさら激しい後悔に襲われる。

考えていなかった。

ホープのことを。

見ていなかったんだ、今まで。

一人で山を歩かせたりして、どんな危険があるか知れないのに。

勝手にやってきたんだから勝手にすればいいと、危ない目にあっても自業自得だと、冷たく突き放していた。

なんとなくどうでもいいと思っていた。
大事にしていなかった。

普段からそうだから、肝心なときに機敏な対応も出来ない。
私なんて結局、直接斬り合うしか能のない人間なのだ。

この怠りは必然だ。

こうなって……。
いま出来ることとは何だ。

どこかで身を潜めて待ち続けること?
いつでも脱出できるように準備しておくこと?

堪えられない。
堪えられない。
堪えられない。

最良の選択が出来ないものは無能と同じだ。

私は無能か有能か。



私は外に出た。
腕に懐かしい剣の重みを感じながら。