ばかばかしい。
なんでわざわざ寝た振りなんて。

第一、未成年者が夜遅く帰ってこないというのに眠れるわけもない。

こんなのは嫌だ。
眠りたくもないのにベッドに入って、どうすればいいか分からずに……只布団を被って状況が変わるのを待つなんて。

こんなの子供の頃以来だ。あの頃の事を思い出してしまう。
父が、母が、自分を置いてこの世を去っていったあの時の不安感。心細さ。
どうする事も出来ない自分がたまらなく嫌だった。本当に子供であるということが嫌だった。

それが今またこんなにも、いや不安よりももっと強い“怖れ”が私を襲う。
腹が気になる。
この私の中にホープの一部が息づいてるせいなのか。

一部というのは変かもしれない。でも上手く言えない。
分身なのか、そのものなのか。

私達が繋がり一つになった不思議な肉塊。

これ以上は無いというほどの完全なる結合。



それなのになんでアイツは今ここに居ないんだ。
自分で勝手に私を追いかけてきたくせに。
強引にここに住み着いたくせに。
私に自分を植え付けたくせに。

なんだか腹が立ってきた。
なんで私がホープに気を遣ってやる必要があるのだ。

そう思って布団を剥いで起き上がろうとしたとき、暗い部屋にふわりとした明かりが点った。

すかさず光源となるモニターを見上げると、腹を立てるほどに待ち侘びた相手の姿が映し出されている。
それを目にした私は、喜ぶより妙な気持ちになって胸を押さえた。
自分の心臓が倍くらいに膨れ上がって、それが胸の中で転がって悶えているような……おかしな気分だ。
心配していた相手が帰ってきたというのに、ちっとも嬉しくないしホッとしてもいない。

起きて出迎えようか………。
いや、どうせ顔を見ても優しい言葉の一つもかけられないのだから、このままでいた方がましだろうな。

面と向かって優しく出来なくてもベッドに入ってしまえば何のことは無い。
特に何もしなくても一緒に眠って朝を迎えてしまえば、わだかまりなど消えてしまう。

いままでも、そうやって騙し騙し毎日を送ってきた。
惰性だと思う。
日常化することから出来上がっていく家族もあるのかもしれないと、思い始めたところだった。




いくら体がなまってきたとはいえ、近づいてくる気配くらい判る。
いや、むしろルシになる以前よりも今の方がずっと鋭敏なくらいだ。

いや否、そうではない。そんな感覚無くとも、彼はいかにも重く引きずるような足取りでやってきのだ。
だから誰だってわかる。

私は結局寝たふりを続けた。
バカバカしいとは思いながら。

少し離れたところで立ち止まるホープ。
馬鹿なまねをしたせいで、その様子を窺い知ることが出来ない。

幸せにでも浸ってるのか。
疲労で打ち沈んでいるのか。
はたまた欲望で上気しているのか。

よせばよかった。これじゃ声をかけようにもタイミングが掴めない。
イライラする。
どうにか上手く、いま目が覚めた風な演技が出来ないものか。

だからなんでここまで気を遣う必要があるんだ。

最初のあの時のことを思い出した。
あのときも私は寝たフリをしていたんだっけ。

どうも象徴的だ。
この先も事あるごとにこんな状態になるんじゃないだろうな。

焦れるのも限界だ。私は元々あまりこらえ性が無いのだ。
だからもう―――。

「ホープ、帰っ――――。」

帰ってたのか、無事でよかった。
そう続けるつもりだった。
もう、いいから引っ張り込んでしまおうと。

だが、突然鳴り響いたけたたましい警報音と、防御機構が反応していることに耳も目も持っていかれて、そんな考えは吹き飛んだ。