Heroes End
……うるせぇな。
いまちょうど楽しい夢を見てたところなのによ。
賑やかなチョコボの鳴き声、色っぽい女の…………なぬ?
え?え?この声って……あの声だよな?
あれ?さっきのは夢でいま聞こえるのは……。なんだか分からなくなってきた。俺はまだ夢の中か?
だってこの声、……義姉さん?
意外だ。
いや、駄目じゃない。
駄目じゃない……、むしろアンタにもそういう人間的なとこあったんだって、安心したっていうか。
普通のことだよな。
十代の頃は、セックスってなんだか怖くてドキドキして楽しい事としかとらえてなかったのに、二十歳を少し超えたらあっという間に、ただの当たり前のことになった。
普通の事、だ。
必ずしも愛だの恋だの掲げる必要はない。
皆、俺がこんなことを言う方が意外だと思うだろうな。
けど、俺だって…………。
いや、あれは………。
「くわせろ。」
「は?いやここには食い物はないぜ。」
「喰わせろ。」
「だから、ここには……。」
「お前を。」
え?お、俺?
えーと、お誘い……っていう顔つきじゃねーぞこの女。
「いや、俺をって……、マジ嬉しいけどさ、俺好きな女いるし……。」
「んなことどうでもいいんだよ。」
いやいやよくね…うわっ。
あっという間に間合いを詰められてしまった。怖えぇ。
鍵をちゃんと閉めておくべきだった。いや、こんなことになるなんて想定外だし。
「待て、ファング。その……ほら、アンタ俺の好みじゃねえんだよなぁ。」
「ふーん、つまり何か?あたしじゃ勃たないってことか?」
「いやっ、そこまでは言ってねえよ……。」
しまったそう言っとけば良かった。あー、変わんねえか。
「そうか、別に使えりゃいーんだよ。」
「わあっ、待っ……。えーと、そら、他にも男はいっぱい居るだろ?そっちを先に……。」
「もう目ぼしいのは喰った。」
あっ、そう……。
え?何?俺、生まれて初めて女にヤラレルの?
そりゃあ、色々妄想の中で美人にせまられてどーのこーのとかはあるけどさ。
こいつも美人には違いないが……。
うわ、もう近い。
むっと押し寄せる香水の香り。
スパイスの混じったような………ってこれ男物だろ。まさかさっきヤッてきた男のとかいうんじゃねえだろうな。
「ファング……。」
マズい。自分の身に貞操の危機が訪れるなんてこと、想像したことがなかった。
野獣が迫ってくる。
体が強張った。男の俺が身構えてどうすんだよな。
けど、ファングのその手は意外なほどやさしく胸元に滑り込んできた。
荒っぽく攻めてくると勝手に想像してた俺は、肩透かしをくらって抵抗するタイミングを逃した。
「あ………。」
「もっと可愛い声を出せよ。」
いやいや、立場が逆だろ。
ファングの手が、胸から鎖骨へ、鎖骨から首へ、首筋から顎へ………。
まるで男を知り尽くしてるような動きだ。
やばい。男の部分が少し反応してきてる。
こ、これは浮気になるのか?必死に抵抗しないとダメなのか?
だめ…だよな。
でも、ちょっとやそっと抗っても押さえ込まれてしまいそうだ。
本気で抵抗すれば何とかなるだろうが、女相手に本気出すってのもな………。それに俺たちがこんなとこで暴れたら、せっかく厚意で貸してもらってるこの部屋がメチャクチャになるだろうし……。
「脱げよ。」
ああ、喰われる。
本意じゃない。本意じゃないんだ、セラ、わかってくれ。というか助けて。
「喰おうとしてんのなら、自分で剥けよ。」
あれ?いけね、つい挑発しちまった。
もうだめだ。
「なんだ、その気じゃないか。」
「逃げられそうにないからな。」
しっかし好みじゃない女を抱くってのもなあ。
「もっとその気にさせてくれよ。でないと出来そうにない。」
「元から勃ちが悪いんじゃねーだろうな。」
これじゃあ挑発の応酬だな。なんでこうなった?
「お前は俺の好みじゃないって言ったろ?」
青い布が、肩からずり落ちた。
美人なのはわかってる。スタイルもいい。
あの引き締まった内腿の筋肉、見るからに締まりが良さそうだ。
ああ、なに考えてんだ俺……。
「なんで、そんなに飢えてんだ?」
服を脱がされているというより、獣に腹を食い破られてる気分だ。
「なんで?何もしなくても腹は減るだろ。」
まあ、そりゃそうだ。
そんなことを話してる間に上半身を裸に剥かれた。
ネックレスに手が掛けられる。
「まて、それは俺が外す。」
なんとなく、任せておくと邪魔だといって引き千切られそうな気がしたからだ。
そんなヒドイ奴じゃないとは思うが。
他人に触られたくない大事なものだからというのもあるけど。
障害物がなくなったところにファングの顔が迫ってきて、胸の中心ら辺を舐め上げられた。
こいつ、表現しづらいが指使いや舌使いの細かい所がいちいち上手い。
少し意外だ。もっと雑な女だと思ってた。
もう……ベルトを外そうとしている。
「ファング、順番にやろうぜ。」
「順番?」
下を向いてた顔を上げさせた。
キリッとした眉。相手を焼き尽くしそうな目。貪欲そうな唇。
「んっっ‥」
ああ、舌もだ。貪欲そう、じゃなくて貪欲そのものだ。
「その気になったか?」
充分に舌を絡ませあった後で、少し得意げに聞いてきた。
「ああ、なったよ。なった。」
床に膝をついていたファングの両脇に手を入れて立ち上がらせた。
「ああん?どうなってんだよ、この布は。」
お返しに、巻き付いた布を剥ぎ取ってやろうとしたが、上手くいかない。
それよりチラッと見た時のファングの顔が、なんだか悪戯っ子を見守る母親のようで一瞬うろたえてしまった。
こういう女だっけか。
俺はうろたえたという事実に更に動揺してしまい、脱がすのは諦めて抱きつくように抱え上げ、ベッドへ軽く放り投げた。
でっけえ女。
実はすました顔できめてみたものの、予想以上の重さに何もしないうちから腰がどうにかなってしまいそうだったのだが、そこは男の意地で顔には出さないようにした。
「寝かせられたら、余計に脱ぎづらいじゃないか。」
「だーかーらー、まずキスだろ?順番だと。」
「もう、しただろ。」
「キスしながら脱がし合うの!」
その時また、ファングが母性の塊みたいな顔で微笑んだ。
どうも……調子狂うな。
不思議と浮気をしているという罪悪感はない。最初に食事に例えられたせいかな。
仲のいい奴と一緒にメシを食う、そういう感覚だ。いつもそうって訳じゃないぞ。
俺はベッドに腰掛けて身をひねってファングに被さるようにした。
ファングは額に掛かった髪を軽くかきあげながら眩しそうな目をしている。
実際、眩しいんだろう。
「暗くしようか?」
「……少し。」
スィッチは切らずに照度の調節だけすると、さっきまで聖母の様だった女の顔がどこかへ消え、今度は色気の塊のような女の顔になった。
いままで出会ったことのないタイプの女だ。好みではないが、いやに惹きつけるものを持っている。
宣言どおり、口付けしながら脱がせ合った。
繰り返すと言い訳っぽくなるが、これでもまだ浮気という感覚にはならない。
手馴れた女と寝るのは楽でいい。
最初から阿吽の呼吸が合っているかのように出来るし、変に緊張することもないしな。
それにしても、こんなに力強く女の指が自分の肌に食い込むのは初めてだ。
「順番だと次は何だ?」
「うん?」
いや、そこまで考えてなかった。
「んー、じゃあ舐め合いっこしようか。」
順番がどうより、あれは身長差が大きいとやりづらいんだ。
でもこのデカイ女なら……。
「上に跨れよ。」
ほら、思ったとおり丁度いいじゃないか。
濃い作りの顔とは対照的に毛が薄いのが可愛らしい。
怖そうな女が、こうやって大事な場所を無防備に晒してるってのも良いもんだ。
この体勢だと俺も同じなわけだが。
さぁーて、女豹ちゃんはどんな声を出すんだ?
「んん‥‥んはっ‥」
………こーゆー女に興味なかったけど、低い呻き声も悪くないな。
「おっっ‥‥う‥‥」
あ、やっぱコイツ上手いわ……。うかうかしてるとあっという間に搾り取られかねない。
それに指を入れた時のこの圧迫感。こっちもヤベェかも。
「う‥‥ん‥早く‥‥」
お、ずいぶん早く音を上げたな。
「なんだ、もう降参か?自分から喰わせろなんて言ってきて―――」
「いいから早くやれってんだよ!」
でええ、スイマセン………。
「へいへい。ご命令に従いますよ。」
俺はそのまま起き上がってファングを四つん這いにさせて貫こうとした。
が…………。
「入らない……。」
嘘だろ……。
「後ろからは無理だ。」
ファングはそういって仰向けになった。
「え?……処女じゃないよな?」
「んなわけねーだろ。狭いんだよ、あたしのは。」
それはなんとなく分かっていたが、ここまでとは……。
「広げてやるから息を吐きながらゆっくりやれ。」
つーか、そこまでしなきゃいけないのか?
それ分かっててもこいつはやりたいのか?
難儀な奴だなぁ。
「‥うわ‥‥痛え‥‥皮が引き攣れて破けそうなんすけど‥‥」
「すぐに弱音を吐くな」
俺はなんでこんなに努力して他の女を抱いてんだ?
って、いまさら後悔しても遅いよな。
「奥まで入れてもすぐに動くな。慣らすまでしばらく待て。」
そういうファングも辛そうだ。
完全に入れきるまでかなり時間が掛かった。
2度ほど休憩みたいのをしたくらいだ。
「ん‥‥そろそろ‥‥い‥あッ‥ゆっくり‥っっ」
「もう、さんざんもったいつけられたぜ‥‥」
「‥あッ‥うあッ‥‥」
こうじゃなくっちゃな、女豹ちゃん。
と、強がってみたものの実はかなり痛くて無理してた。
だからなんで俺は無理してんだ。
あー、きつけりゃいいってもんじゃないって、ほんとに身をもって知ったぜ。
「‥ファング‥‥締めるなよ‥これいじょ‥‥っく‥無理‥だからな‥‥」
そういっても最早ファングの耳には入っていないようだ。
俺の方も痛みだけではなく快感ももちろんある。
容易じゃないのをわかってまでやりたがる心理は理解できないが、満足していただけるなら結構なことだ。
「あっ、俺つけてねーわ。」
忘れてた。今頃気付いた。
「‥心配な‥い‥‥」
あ、そう?心配ない?
まあ、自分でやりまくってる宣言してんだから自己管理くらいしてるか。
「じゃあ、遠慮なく‥‥」
「あうッ‥‥は‥‥あッッ‥‥」
正直、早く終わらせないとアソコがどうにかなってしまいそうだった。
やっぱこういうのは相性が大事だよな。
ファングの乱れる姿を楽しむ余裕はちょっと無い。
「‥‥ファング‥‥もう‥だめだ‥‥」
「‥‥し‥‥も‥もう‥‥‥」
頼むから一回で満足してくれよ。
真剣にそう願いながら解き放った。
何かを見ている。
俺なんかは眼中に無い。
「ご満足いただけたのかよ。」
「……まあな。しかし――」
「しかし?」
「やっぱりこういうのは想い合う相手が一番だよな。」
「うぉおおいぃ!お前が!お前がいま俺にそれを言うか?」
「あん?」
「俺はな!結婚を誓い合った相手がいるんだよ!俺の…俺の純潔を返せ!」
「知るかよ。」
「ああ……俺のささやかな幸せに暗い影が……。」
「なんだよ、ささやかな幸せって。」
「それはな、俺と……俺とセラとであったかい家庭を作ることだよ。夫婦になって、子供が出来て父親と母親になって、ああ義姉さんもいるから………。義姉さんはどんな旦那連れてくるのかなあ?軍人だからやっぱりムキムキの奴とかかなぁ。それともキリッとした堅物タイプかな?」
「どーゆーのか知らねーけど、軍人なんかやってる女に限って小動物みたいな坊やペットにしてたり、それに相手が男とは限んねぇぞ。」
「なうっ?妙な想像させんなよ。」
不思議だ。和やかに話してるけど、こういう男女関係ってあるとは思ってなかった。
やった後でいうのは矛盾しているかもしれないが、男と女の友情ってこういう感じか?
俺が愛する女はセラだけだ。こいつだって別に俺に惚れてるってわけじゃない。
不思議な女だ。男みたいに乱暴な言葉遣いで、粗野でガサツかと思えば、そっと覗き込んでみるとこれこそが女の中の女みたいな顔を見せる。
「お前……、俺を慰めるなよ。」
「はあ?何の話だ。幻覚でも見てんのか?」
なんとなく……、それをされたらこの女に堕ちてしまいそうな気がした。
それだけはさせられない。俺を慰めていいのはセラだけだ。
「戻る。」
あっさりしてるな。
そうだ、こいつの見ているのは俺じゃない。
こいつにはこいつの追い求める相手がいるんだろう。
俺は何事も無かったかのように部屋を出て行くファングを、甘いような………苦いような気持ちで見送った。
あーあ、心の奥のずーっと奥にしまっておいた事を思い出しちまった。
義姉さんの声はあの後一層激しさを増したあと、ぷっつり聞こえなくなった。
やるなとはもちろん言わないよ。
俺が後ろ暗いから……とかじゃなくて、うーん、成人女性なんだから……なんつーか快楽に身を沈めたいって時もあるだろうよ。
で、だ。
誰だ?一体誰が義姉さんをあんな風によがらせてるんだ?
はっ、ファングか?もしかしてあいつか?
有りうる。
でもそれじゃあヴァニラは………。
も、もしかしてヴァニラもか?
3人か?3人でなのか?
まったく女どもときたら…………、男の方がよっぽど純情だっての!
その後、さすがの俺もまあ色々わかってきた。
なあ、ファング。
俺は断言する。
お前は………予言者だ。