Deep river 6
もう少しと思っても、そう簡単ではない。
寸でのところで終わってしまうこともある。
男は射精という明らかな現象があるからいいが、女は………。
女も何かはっきりした物があればいいのに。
例えば精液を受けたら自動的に達するとか。しかしそれでは物理的避妊は出来ないだろうな。
上でホープが頑張っている。
私のために。
可愛いというより小憎らしい。
それでも。
「‥‥ッは‥‥ッッ‥‥」
もう言わなくてもわかるはず。
いまなら。
この瞬間だけは、相手を愛している気になる。
だがそれは他の男でも同じ。
ホープは賢い子だ。私の変化に気付いたようで、顎の辺りに音を立ててキスをし、更に激しさを増して自身も終わりを得た。
2人とも呼吸困難もいいとこだ。
それに暑い。エアコンの設定温度をもっと低くしておけば良かった。
「喉が渇いた。」
「お酒でいいですか?」
「水にしてくれ。」
「わかりました。」
ホープに持ってこさせた水で錠剤を二つ流し込む。
「薬ですか?どこか具合でも?」
何をのん気な事を。
「これは事後用の避妊薬だ。」
「えっ……。」
何が「え」だ。つくづくこれだから子供は。
「その……あの時も、それを?」
「あの時は、軍から支給された事前に飲んでおけば長期間効果のある薬を飲んでいた。まだあの時も期間内だったはずだ。まあ、避妊は出来てもお前が病気持ちなら話は変わるが。」
「……そういうの、あるんですか。知らなかった。」
「民間には出回ってないからな。前者は軍内のみで、更に体に悪影響があっても文句はないという宣誓書にサインした者にだけ。軍なんて色々ある所だし。後者は―――犯罪被害者のためのものだ。これは民間の医療機関にも置かれている。当然ここの医務室にも、だ。」
「は………。」
絶句しているな。
ただし、この状況では犯罪者は私の方だ。そしてお前は被害者。
もし、大勢の人々の前で私のことを好きだの何だの言って擁護しようとすれば、世間では益々私がこの少年を惑わしたと見るだろう。
実際はどうも惑わされているのは私の方だという気がするが。
なぜか、無防備になり懐に入り込まれてしまうような……。
「それ……、これからもう一回したら、また飲まなきゃいけなくなるんですか?」
まったく。その事しか考えられないのか。
子供のくせに子供を作るようなまね…………、それを出来るって事は生物としてはもう大人なのか。
ヒトが社会を作った時にとりあえず線引きをしただけで、個々の成長の度合いは皆違う。
その社会も、パルスの人間はあの2人を除いて絶えてしまったようだし、コクーンの人間にとってはあの繭の中が全世界だったのだ。いきなり世界から放り出されて、社会も法律もない。
いや……、人々はこの新しい世界でまた何とか再出発しようとしている。
そうなれば新たな社会の中で、法や秩序も取り戻されるだろう。
法律はパルスに合わせて変わって行くだろうが、基本的な倫理観まではきっと変わらない。
どうしたって、これは………。
とぷ。
ああ、忘れてた。中から出てきた。結局シーツがべたべただ。
ホープの方を見ると既に寝息をたてている。
リアルすぎるピロートークの途中で、お子様はおねむか。
幼いな。
幼い寝顔。
なんとなく、おそらく母親のような気持ちで、そっと髪をなでた。
………だめに決まっている。
朝日を浴びて輝く平原の景色を見ながら、昨夜の痴態を思い出した。
あの野生の獣達ならいざ知らず、私達はこの世に2人きりというわけではないしな。
社会はまだある。
帰してしまわなければ。
「ブラインドも何も、開けっ放しでしたね。」
「こんなとこ、誰も来ないからな。」
振り向かずに、答えた。
「見てるとしたら、あいつくらいだろう。」
「あいつ?」
「タイタン。」
「どう、思うんでしょうね。」
「どうって、どうもないだろ。ルシでもない私達なんて、きっと虫みたいなもんだろう。」
虫が交尾してるくらいで、一々何か思いにふけったりはしないだろ。たぶん。
「それでもこうやって毎日見てると、今の私の唯一の家族みたいに思えてくるな。いや、ご近所さんかな?」
肩に手が掛けられた。
当然また来ると思ったが、意外にもそのまま動かず無言のままだった。
「もう……シャワーを浴びて帰れ。父親が心配してるだろう。」
手に力が込められる。
もっと小さい手だと勝手に思い込んでいたが、これなら私とそう変わらない。
男女の骨格の差というやつか。
しばしの沈黙の後、彼は離れていった。
体のどこかがほんの少しだけ、残念だと訴えた気がする。
ふと気が向いて、気の済むまで指を体の奴隷にしてやった。
「少し食べて行くか?」
「いえ、もう帰ります。」
「そうか。」
寂しくなるな。
「ああ、帰りはこっちからで良い。」
ホープの靴を出してやって玄関に案内した。
「じゃあ、気をつけてな。」
「あの……、僕また近いうちに此処に―――」
ホープ。
「もう此処へは来るな。」
私は……。
「…………え、いま何て。」
受け入れ難い言葉だろうな。
「もう…、此処へは来るんじゃない。」
呆然としている。予想もしてなかっただろう。
「わかっているだろうが、お前はまだ女の隣で眠る歳じゃない。ここじゃなく、どこかで会って話をしたりするぶんには構わない。だが、ここへ来れば……きっとまた、なし崩しにああなってしまうだろうから……。だから駄目だ。」
顔が青ざめている。
「あ……その…ああいうのが、早すぎるっていうなら……我慢します。……わかってます。だから、ここに来ても…………いいでしょう?」
さっきから、そうしたらぐずぐずになるに決まっていると言ってるだろうが。
「だめだと言っている。聞き分けられないなら今後一切会わない。」
その方が良いのかも知れない。
「じゃあ……ここに来るのも我慢します。でも……。今は我慢して、僕がもっと成長したら……そうしたら、……………付き合う相手として見てもらえますか。」
まだ男として見て欲しいということか。
なんとか食い下がろうと必死になっている。
いっそのこと傷付けてしまった方がいいのかも。護るなんて言っておいて、正反対だな。
「将来のことはわからない。だが………お前はその気持ちを持ち続けたままで、本当に我慢なんか出来るのか?私は―――」
もう言ってしまおう。
「お前に対して恋愛感情はない。」
これは本心だ。
「それに私の方は我慢しなければならない義務はない。お前が大人になる前に誰かと付き合うかもしれないし、まあ寝る相手くらい作るだろう。」
そうして置けばよかった。そうすればこんな事にならなかったろう。
ホープ、打ちのめされたか。すまないな。
「あなたは……優しかったり冷たかったり、いつも意見や態度をころころ変えて………、振り回される人間の事なんか………。」
図星だ。
私はすぐふらふらしてしまうんだ。
だから私は、自分を貫き通せるファングに憧れている。
「そうだな、その通りだ。これ以上傍に居ればもっと苦しませるだろう。だからもう…………。」
これで………。
「終わりにしよう。」
俯いてたホープが顔を上げた。
瞳が濡れて光っている。
何か言おうとする前に、軽く突き飛ばした。
ホープは案の定それだけで膝から崩れ落ち、尻餅をついた。
そして私はすぐに玄関の内側に戻り、扉はおろか外部防護壁まで下ろし、繭から出てきた身の癖に今度は殻に閉じこもった。
後味が悪い。
全部私が悪いんだ。
ああいうのを、弄ぶというのだ。
酷い事をした。気分が悪い。
ベッドに戻ると、まだはっきりと情事の後の匂いがした。
私の体も、まだ彼の体液や移り香で覆われている。
少し気だるい。
突然、呼び鈴が鳴ってモニターを確認するとセラが居た。
まさかホープとすれ違ったのでは、と思ったが、どうやら私は眠ってしまっていたようだ。既に昼近い。
「お姉ちゃん、どうしたの?シャッター全部下ろしたりして。」
「ちょっと気分が悪いんだ。」
「えー?もしかして二日酔い?」
「たいして飲まなかったはずだが、久し振りで弱くなっていたのかもな。」
何もかも昨夜のままだ。気付かれてしまうだろうか。
知られたくない。
「ずっと寝てたの?朝ごはんは?」
「いい。気持ち悪いんだ。風邪かもな。」
何しに来たんだ。早く帰ってくれ。
「え?じゃあ、食べた方がいいよ。いま、作るから。」
「いい。セラ。もう少し寝ていたいんだ。」
「そう……、じゃ、冷蔵庫に持ってきたお料理入れておくから。今日はあたしが作ったのもあるんだよ。良くなったら、食べてね。」
「ああ、昨日ホープが美味しいと言っていたとレブロに伝えてくれ。」
「うん。言っておく。それじゃ、お大事にね、お姉ちゃん。」
「ああ、気をつけて帰れ。」
本当に気分が悪い。
セラは何も気付かなかったろうか。
もう……、ここは引き払ってしまおうかな。
チョコボもだいぶ慣れてきたし。家など捨てて旅にでも出てしまおうか。
そう……そうしてしまおうかな。
どこかへ行ってしまいたい。
誰も居ないどこかへ。
FIN〜〜