deep river 4



気管に入ったのがアルコールだったせいで中々咳が止まらない。
私は口を押さえ、呼吸を極力ゆっくり静かにして咳き込むのを抑えようとした。
しかし、すぐ傍にいる若い男がそれを大人しく見ているだけの筈はない。
ましてベッドの上で。
いまや私は彼にとって弱った獲物だ。
一気にとどめを刺すも、嬲りながら息の根を止めるも思いのまま、そういう状況にある。
しかし自分が獲物なのだと思いつつも、何処からどういう風に攻めて来るだろうかと期待……めいた感情が湧いてる気がする。
室内が暗くなった。

「う‥‥ふッ‥‥あ‥‥」

彼は覆いかぶさってきて私の耳の下辺りを舐めながらワンピースの裾をたくし上げにかかった。
いま刺激をされるとせっかく抑えてた咳がまた込み上げてきてしまう。
かといって彼の体を押しのけようとしても、かえってお互いが縺れ合いどんな男でも余計燃え立つに決まっている。
下着に手が掛かる。
彼の手のひらが直接肌に触れる。
少しずり下げただけでそのまま隠されていたはずの部分へ手を滑り込ませてきた。
その部分は既に。

「‥濡れて‥‥ますよね‥‥」

悪いか、という言葉が出掛かったが喉の奥がひくついて空気の通る音がひゅうと鳴っただけだった。
こんなにすぐには知られたくなかった。
なんだか負けたような気がして。

「‥っ‥まっ‥‥」

自らの言葉に弾みがついたらしく、一気に下着を下ろし足から外して勢いよく足を広げられた。
いつからだったろう、出会った時はびくついた小僧だったくせに急に大胆な言動をするようになったのは。
濡れていると言われた箇所に更に濡れた物が当てられた。

「ふ‥‥あッ‥」

舌を使われたらもうだめだ。やっぱり負けかも知れない。
足の間にホープの頭がある。細くて柔らかくてふわふわの髪の毛。
もう負けでいい。負けでいいからこんなことより早く……。

「ライトさん‥僕もう今すぐ入れたい‥‥」

考えていたことが伝わってしまったのかと思ってドキリとした。
だが当然といえば当然だ。あの時以来、私達は何もなかったし、他の女とどうこうという年齢でもない。もっともこれは私が知らないだけで、実際のところは分からないが。
なんて答えればいいんだろう。
わかった、とか?
ちょうどいい言葉が見つからない。
考えあぐねている間も、ホープの舌が奥へ奥へと割って入ってくる。
もちろん舌の届く範囲など高が知れているが、持ち主が自在に操ることができ、その独特の感触と動きが私を忘我の域へ追い遣ろうとする。
もうだめだ。

「あ‥‥んっ‥‥早く‥‥」

だめだ。
だめだ、これじゃ。
これじゃあ、逆だろ。私の方が欲しがってるみたいじゃないか。
ベルトを外す金属音がした。
舌が奥を求めるのを止め、縁をなぞり、指で剥き出しにされた突起へと襲い掛かる。

「ぅあうっ‥‥」

確かにそこは敏感だ。だが、それまで僅かでも埋められていた部分を空にされて、渇望がより強くなる。

「ああ‥‥あッ‥あッ‥あんッ」

はやく。
衣擦れの音がする。
まだ、じらす術なんて知らなくて良いんだ。
触れ合っている部分がなくなった。
ほんの数秒だろうが、とてつもなくもどかしい。
あらためて、膝に手を掛けられ足を広げられた。太腿の内側に彼の体の側面が触れる。
わざと擦り付けた。今更誘うまでもないけれど。
それでも上から溜め息のような喘ぎのような声が漏れてきた。

「は‥‥んっ‥‥」

私の声がそれに重なる。
ホープが私の中にいる。
思い出したが、やっぱりちょっと物足りない。
だが、若いだけあってすごく硬いのがわかる。
まるで年下趣味の年増女のような物言いだな。欠陥人間どころか、犯罪者になってしまったし。
どうしてこうなったんだろう。
何度も同じ疑問が頭に浮かぶ。
誰の言葉だったか、女は自分を貫き揺さぶる者を愛するという。
寝たからといって相手の男を愛したことはない。
ホープの事だって……。
いや、そういう事じゃない。
愛するかどうかではなく、愛したつもりもないのに何故また彼を受け入れてしまったのか。
考えが纏まらなくなってきた。
この行為の最中に何か考えるっていうこと自体が愚かだ。
こうなったら流れに任せればいいのに。結局私は往生際が悪いんだな。

「ホープ‥もっと‥‥激しく‥‥」

いっそ引き裂かれるように激しく昇りつめたい。

「え‥あの‥‥それだと‥僕すぐ‥‥」

だろうな。

「いい‥‥いいから‥」

激しくされたいんだ。壊れるように。

「‥‥わかりました」

こんな時にも丁寧に『わかりました』か。

「ああッ‥そう‥ぅあッ‥‥」

14歳の少年が私に腰を打ちつける。
もっと……もっと……。
壊れてしまいたい。
私はセックスを楽しんで出来ないんだ。
相手の男を愛してこなかったからかも知れない。
いつも戦いのように始めて、自壊するように終わる。それの繰り返しだ。
だから強い快感はあっても、あまり好きにはなれなかった。
それは今も。
しかし好きになれなくとも、いき方くらい知っている。
人に任せて置けず、なんでも自分で解決しようとする一種悪い癖のせいだ。
だから今も。

「もっと……もっとだ……」

もう少しで。

「無理‥です‥‥僕もう‥」

限界か。

「いい‥‥もうすぐ‥わたし‥も‥‥」

要求どおり激しさを増した。

「あっ‥‥ああッッッ」

どっちの声だったかわからない。
直後に、ホープの体がどっしりと重くのしかかってきた。




重要補足
文中の 「女は自分を貫き揺さぶる者を愛する」 は
マルキ・ド・サド 著   澁澤龍彦 訳
『悪徳の栄え』
から引用しました


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