![]()
deep river 2
完全に忘れていた。
正直ホープのことなんて、ここ最近は思い出しもしなかった。
なのに突然………。
腰に巻きつく未成熟な腕を思い出す。
全身がざわつく。
もう出ただって?まだバスローブのままだ。急いで一階へ駆け下りて衣服を身につけ廊下へ出たところで、天井近くにあるモニターが自動点灯した。
カメラが侵入者を映し出す。
ホープ……。
階段を上がってくる。
何が酒だ。下心見え見え、いや下心の塊だろう。
私が……、気を持たせるような事を言ったんだったか。
玄関先で軽く応対して帰してしまおう。
キスか……、まあそれぐらいはかまわない。既にそれ以上のことをしているんだし。
家の前まで出てきて急にしゃがみこんだ。
すぐに立ち上がって、上を向いたり俯いたり、またしゃがみこんだりしている。
逡巡………しているのか。
いまさら純情ぶったところで………。
十四歳。
下心、いや性欲の塊といってもいい年頃か。それでいて児童なわけだから純情ぶっている、じゃなくて本当に純情なんだろう。
両者が同居する、つまりごく普通の少年だ。
体を揺さぶるあの特殊な異物感の記憶が甦る。
せっかく忘れていたのに。
軍人を辞めて、ルシではなくなって、妹の保護者でもなくなったのに、まだ『女』が残っているとでもいうのか。
あの時の、あのあとは何も気にせず普通に出来たのに何故いまになってこんな……。
呼び鈴が鳴った。
他のモニターを切る。
「ホープ、悪いが入って右に進んで、クリーンボックスに靴を入れて奥にあるスリッパに履き替えてくれ。手前で一瞬エアシャワーがある。」
考えている事と、言っている事が違うな。
これじゃあまるで……、入ってきてほしいと思ってるみたいじゃないか。
足を開く自分を夢想する。
私は一体なにを考えてる?
自分が淋しいから、あの子を慰み者にしたいとでも?
私にも下心があるというなら。
二人とも同じことを考えているという事じゃないのか。
それなら。
なら、ここから先は茶番にという事なってしまう。
もう……、始まっているのか。
「ああ、面倒な事をさせてすまないな。」
いつの間にか落ち着きを取り戻したようだ。にこやかに笑っている。
「こちらこそ、いきなり来てすいません。」
それはわざとだろうが。まあいい。
「食事時を狙ってきたんじゃないだろうな。」
「いやー、偶々ですよ。今日、パルムポルムに一時帰宅して来たんで。ライトさんはもう帰ったんですか。」
「ああ、この家を軍の倉庫から引っ張り出した時についでに寄ってきた。」
「ここ、すごいですね。軍事施設なんですか?」
「軍の施設ではあるが、軍事施設ではないな。昔な、警備軍の方でもパージされた人々の調査しようという動きがあったらしい。そのためにパルスに観測所みたいなものを設置しよう、ということでこれが作られた。ま、流れた話だがな。それでもキット状になって倉庫にいくつか放り込んであったのを見つけてもらってきたんだ。有償だが。」
「……安くはないですよね。」
「まあな。しかし私達は英雄になったとは言い難いが、金持ちにはなったからな。」
ホープは私の話を聞きながら部屋を見回している。
おあつらえ向きにベッドもあるしな。
どうせ一人だからと、食堂に当たるこの部屋にテーブルもベッドも置いていたんだ。
「ライトさん、この写真……。」
写真……。それはあの二人の。
「ヲルバ郷から持ってきたんだ。スノウが何故か異様にあそこに執着して、とうとうノラの連中で占拠してしまったよ。軍や暫定政府もあの辺はたいして価値は無いと判断したんだろうが、あいつにあんな政治力があったとはなぁ。冗談抜きで、そのうちノラという小国家が出来るかもな。名前はヲルバかも分からんが。」
あそこはあの二人の故郷。あの二人……。私が淋しい理由。
毎日のように、あの二人を元に戻す方法がないかと手がかりを探し求めてはいるものの、ただ徒に時間が過ぎていくだけ。
いまこのご時世に、こんなに特に世の為人の為にならないことをしているのは他にいないだろうな。
今までとは違う、今度は本当に私が私自身のためにやりたいことをやっているんだ。
一向に手応えが得られないのが空しいが。
「ああ、上が開いたままだったな。」
二階のドームの蓋が開いたままだった。一階からでも開閉の操作は出来るが、もう一度景色が見たかった。
ホープが後を追ってくる。
なんだか私の体の周りにホープの何かが絡みついているみたいだ。
まだ何もされてないのに。
される?
私が彼に何かをされる?
思い出してしまう。
影が濃くなる。
もう太陽の光は夕日のオレンジではなくなって、ただ影を放つために顔をのぞかせているといった風だ。
こんなとこで二人で佇んでいたら、彼の腕が私を抱き締めに伸びてきそうだ。
こっちを見てる。
「ああ、ほらお前、すっかり日が……暮れてしまったじゃないか。」
待っていたんだろう。