Deep River


こんなに孤独だとは思わなかった。
寂しい、という感情があまり湧くことが無かったから。
そんな暇なかった……というのかな。
軍籍にあった頃はもちろん休みはあったが、それは次の任務に備えた言わば仕事の内だったし、誰かに会うといっても妹ぐらいにしか時間を作らなかったし。
だから……こんなときに会って話をする女友達もいない。
欠陥人間だな。
全くいなかった訳ではない。と、思う。
少し前に初めて馬の合う女に出会った。だが、あっという間に失ってしまった。
死……ではない、ただ会えなくなった。
あれが見える所に住むのは間違いだったかもしれない。
毎日見ていると切なくなるし、何も出来ない自分の無力さに打ちのめされる。
こんなに淋しくなるなんて。
――――ファング。
隣で笑っているはずだったのに。

ここへ居を構えて、もう随分経ったな。
たった一人なのにこの広さ。ほとんどの人々が、窮屈な非難生活を今もしているというのに。
私達は普通の人間に戻った。しかし、周囲から見れば、やはり特別な人間のままだ。
贅沢……といってもただ広いだけだが、そういう暮らしをしていても、それをもって謗られるようなことはない。
特別だと思われているから………。
様々な意味で。

もう元には戻れない。
私達だけでなく誰もが。
それでも人々はこの新しい世界で、再び安定した生活を得ようと必死になっている。
私だけがその必死さとは無縁で、毎日を幻としかいえないようなものを探し求めて……、それでやっと自分の中の淋しいという感情に気付いた。

大平原に日が落ちる。
一日で最も孤独感が深まる時間。
でもないか、仲間がいた。
――――タイタン。
孤独かどうかは分からないが、傾いた日を眺めてる。
あいつも何か思うところがあるのか。

通信機が鳴っている。
軍の細かい下請け仕事でも、少しはやっていないと本当に世捨て人になってしまうな。

「はい、ライトニング――。」
「あっ、お姉ちゃ〜ん。いま平気?」
「セラ、一般人があまり私用で通信機を使うんじゃないと……。」
「一般の人は皆かたまって暮らしてるでしょ。お姉ちゃんだけだよ、そんなとこで一人で暮らしてるの。だからお姉ちゃんは特別!」

また特別か。これは私が選んだんだが。

「私用で使ってるのは私じゃなくてお前だろ。……用件は?」

妹と話しても孤独感は埋まらない。
簡単だ。奪われた妹を取り返したら、別の誰かを失った。
月並みな表現だが、心にぽっかり穴が開いた。
最初は彼女らが自ら選んだことだからと納得していたのに、時間が経つにつれてじわじわと、例の
『淋しさ』に襲われる様になった。
確かに、こんなところで暮らすのは間違いだったかもしれない。

「あっ、あのねー、お姉ちゃんこれからもう出掛けない?」
「もうやることは終えてさっきシャワーを浴びたとこだ。今からなんてどこにも行かないぞ。」
「んー、いまね、ホープ君がお店にいっぱいお酒持って来てくれたの。それでね、お姉ちゃんの所にも一本もって行くからって。」

ホープ。
思ってもみなかった名前を聞いて、どきりとした。

「今からって、もう日暮れだぞ。」
「でも冥碑を通ればすぐじゃない。」

そうだ。平原の端と端、こんなとこに住んでいるのは私だけとはいえ、ヤシャス山への道に近いうちとマハーバラ坑道入り口近くのノラの店とはある意味近所ともいえる。
ここに家を建てると言った時、妹は反対したが冥碑があるから渋々でも納得させられたのだ。

「もう、いまからここを出るって。」
「待て、私がそっちへ取りに――。」
「さっきシャワー浴びたばっかりで、どこにも行かないって言ってたじゃない。いいんじゃない?持ってきてもらえば。あ、もう出ちゃったみたいよ。」
「………わかった。」
「じゃあね〜。」
「ああ。」

………ここへ。
日が落ちる。
ここへホープが来る?
ここに?