tenore 1





「‥‥‥あ‥‥‥‥」

お腹の大きい女の人とこんな事するなんて想像つかなかった。
勃つ訳ないと思ってたのに。
そんなことあるわけないと思ってたのに。





それは突然だった。
夕食を終えると、なんとなく2人で2階に上がって、なんとなく並んで座って映画を観るのが常になっていた。
彼女は映画なんて子供の頃にしか観てないというので、僕が比較的新しい物について説明したり、反対に彼女が懐かしいと思うものを一緒に観たり。
このときもそう。
ふいに髪を引っ張られた。
彼女はまたソファのコーナーにもたれ掛かっている。だから手は届かない。
僕の髪を引っ張っているのは彼女の左足だった。
足の指で器用に髪をつかんだり、耳たぶを挟んだりしている。
どう………反応すればいいんだろう。
このまま黙って我慢するべきなのか……、それとも誘いに乗るべきなのか、どっちがいいのかわからない。
こんなことをされたら、体の方があの反応をしちゃう。
足が耳から顎のラインに移ってきた。
足の指先から付け根までの窪んだ所に僕の顎の右側をはめこんでグイグイ押してくる。
何かしゃべろうと思ったけど、うまく咽から声が出ない。
呼吸が速くなってしまう。
顎から咽をなでながら、足先がするすると下へ降りていった。

「‥‥んっ‥‥‥」

足の先で、僕の股間が硬くなってるのをじっくり確かめられてる。
顔から火が出そうとはこのことだ。
バカにされてるような気もするし、恥ずかしくてたまらない。
なによりこのまま出ちゃったらどうしよう。
しかしすぐに足は下ろされた。

「疲れた。腹筋がうまく使えない。」

ああ、お腹が膨らんできたからかな。

「なに我慢してるんだ、エロガキ。」

またそれを言う。

「エ……、僕は普通です!」

僕が特別そんなことばっかり考えてるわけじゃない。僕くらいの男子なら普通だ。そのはずだ。

「我慢……しなくていいんですか?」

ただでさえ今は変な声なのに、さらに裏返ってしまった。
第一、そんなストレートに聞いてどうするんだろ。
いいと言ってくれるとでも?

「どうせ毎日毎朝毎晩抜かなきゃいられないんだろうが。」

顔どころか全身から火が出そうになった。
そ……、それはそうだけど、それを面と向かって言われると。
しかも好きな人に言われるなんて。
事実そうなんだけど、そう思われてるっていうことで更に男って汚い生き物だと感じさせられてしまう。
手に嫌な汗が出てきた。
このままここを逃げ出してしまおうか。
笑われるかな。

「下を向くな。」

そう言って今度は足の甲の方で顎を下から押し上げられた。
もうだめだ。
我慢なんて……、やっぱり我慢なんて…………。


出来っこないんだ。
足首をこれでもかというほど強く掴んだ。あのときみたいに。
あの時?いや違う。あのとき掴んだのは手首だ。手首を捕まえて初めてキスした。
いまは?今は顔は遠い。
じゃあどこに?
口を付けるならどこに。


足首から手を離してスカートの中へ滑り込ませた。
下着を引き剥がそうと腰を抱えたがこれがメチャクチャ重い。
一瞬、子供のせいかと思ったがそんなわけはないよな。
いままでと違ってソファにもたれてるから、上半身の重みまで掛かってるからだ。
本人が腰を上げてくれないと辛い。
そんな事してくれるわけないだろうから、もう必死になって下着を引っ張った。みっともないくらいに。
ほらこれで、口を付けるところが見つかった。

「うっ‥‥‥っあ‥‥」

特別な知識なんてないからここしか思いつかない。
ここなら絶対に声を出してくれるし。
引き攣るように膝がたたまれた。
こうしている時に髪をなでたりくしゃくしゃにされたりするのが好きだ。すごく嬉しい。

「‥‥んんっ‥‥」

苦しげな声。
意外と声を我慢したりしないトコも好きだ。
僕は周りを一切無視して、ただ舌を奥へ奥へと差し込んだ。
入れたくてしょうがなかったんだ。ただひたすら。

「くんっっ‥‥あ‥‥は‥‥‥はやく‥‥」

声が一層高くなった。
このままもっと悶える様を楽しみたい。
足が伸びたり曲げられたりして暴れてる。
僕の呼吸も荒くなり、このままでいられそうになくなって服も脱がずにその部分だけ出して一気に差し込んだ。

「ん‥‥はう‥‥」

力強い指が僕の肌に食い込む。
最初から激しく動いた。
布で肌の感触が遮られるのがもどかしい。
僕を掴んで放さない彼女の手を、なんとか振り解きながら服を脱いでいく。
どうして……、なんで映画なんかで悪そうな中年の男までも無防備に服を脱ぐのか理解できなかった。
いまならわかる。
やめられないんだ、歳をとっても。
その部分が繋がるだけじゃ嫌なんだ。
もっと全身で感じたい。
2人の呼吸が重なる。
下半身は上手く脱げなくて中途半端で間抜けな格好になってるだろうけど、もう全然気にならない。
僕の動きに応えて、彼女の腰が浮き上がる。
楽だからと言って最近ワンピースばっかり着ててくれるから、この体勢なら脱がせやすい。
素肌に指が押し込まれる。
爪は伸ばしていないけど、他の女の人にこんなに強く掴まれたことない。
痛みももう気にならなくなった。

「うっ‥あッ‥‥あッ‥‥」

ああ‥もう‥‥‥、僕は・・‥サカナにされたんだ‥‥。
陸へ上げられて‥‥‥くるしくて‥‥‥‥‥‥‥。
濡れた所に戻りたくて‥‥‥のた打ち回ってるんだ‥‥‥。

「うあッ‥‥くっ‥‥‥」

没頭して本当に意識が朦朧としかかる寸でのところで、急に中が狭くなった。
もうセーブする理性なんて欠片も残っていない。
僕は流されるまま、浮き上がるような、全身が総毛立つような感覚に陥りながら、何かが自分から放出される悦びに浸っていた。



遊ばれたんだと思う。
僕とは対照的に、彼女の方はあまり息が上がっていない。

「ソファは疲れる……。」

それは僕もだ。
寝そべることが出来ないから背もたれにしがみつく様にもたれかかる。
ふいっとライトさんは立ち上がって歩き出してしまった。
僕は少し息を整えてから後を追った。

建物のほぼ中央にあるエレベータ。
扉が開くと憎らしいほどに眩しい。
2人とも足取りは鈍い。
広すぎる箱内の奥まで行って、ライトさんはしゃがみこんだ。裸のまま。
髪の毛が顔にかかって、薄く開いた唇だけがいやらしく覗いている。
妖艶、というのだろうか。
もしコクーンが無事だったら、こんな姿を見ることは出来なかったかもしれない。
そう考えると、あの世界が終わったことに感謝さえする。
二階から一階なんて一瞬だ。でも扉が開いてもどちらも身じろぎもしなかった。
明るく刺すような光。

「このままじゃ……体が冷えますよ。」

擦れた声をやっと絞り出した。
頭に口だけしかない女がにぃっと笑った。

「エロガキ。」

また何かが咽に貼り付いて声が出せなくなった。

「っっ‥‥こらっ‥なにをする‥‥冷たいじゃないか‥」

僕は膝を抱えているようにしていた彼女の腕を開かせ、その場に押し倒した。
床は冷たいし硬くて膝が痛い。
わかってる。この人はこうやって挑発して僕で遊んでるんだ。
だってとても分不相応な相手だもの。
ここでこんな風にさせてもらえるのは奇跡だ。おおっぴらには言えない類の。
足を開かせて自分の体を間に入れた。
太腿の内側がべたべたで、真っ赤な花びらの中に残っていた白い液体が淫らに光っている。
きっと今日は僕に荒っぽくさせたいんだ。そうに決まってる。
そういう風に挑発してるんだから。
だから何もせずにいきなり入れた。腕を手綱みたいに引っ張りながら激しく突いた。
膝が痛くて壊れそうだったけど、この叫び声を聞くためならどうなったっていい。
どうなったっていいんだ。
せめて。
期待してもらえたのなら。
少しは働いて見せたい。


そこでの行為が終わった後、またふらつきながら寝室へ向かい、莫迦みたいにいつまでも縺れ合いながら夜をすごした。


こうしてまた、これもなんとなく、僕達は毎夜同じベッドで朝を迎えるようになった。