「ここは………、どこだ?」
私は………、私はあのルシどもに倒されたのではなかったか。
そして……。
なにもない。
なにも見えない。
色の無い……世界?
不可視世界、なのか?
おお、とうとう神が現れ、世界は救われたのか。
やりおったなルシどもよ。
みごとオーファンを打ち倒し、コクーンを滅ぼし、世界を救済せしめたのだな。
これでもう―――。
………何故いまも『私』が存在しているのだ。
神を呼び出す私の役目は終わった。
もう私に存在理由は無い。
神が現れ、全てが消え去ったなら当然私も消えてるはずだ。
私はもういらないのだ。
いなくていいはず。
もう何もしなくていいはず。
なのに―――。
何故私は………。
まだ何かしなければいけない事があるとでも?
あれほど長い年月を掛け、世界を変える一大使命を果たしたというのにまだこれ以上―――。
これ以上、何をするというのだ。
世界が救われたのなら、何もする必要ないではないか。
まさかまだ、終わっていないのか。
この世界は。
なにもない。
ここには何も無い。
何も無いのに―――。
何故、私だけが『在る』のか。
世界は…………。
どうなった?
「う…………。」
己の呻き声だけが響く。
いや、それを音と感じ取ったのかもわからない。
空気を震わせることが出来たか、その空気が本当に存在するのか。
自分の感覚機能は正常に作動しているのか。
自分は……、自分は本当に『在る』のか?
ここは何処だ。
いまはいつだ。
世界が救われた後ではないのか。
「うう………。」
救いとはなんだったのだ。
どうなれば、どうあれば『救い』だったのか。
ここは何なのだ。
私しか居ないのか。
私は――――。
これが人間達の言う『不安』というものか。
『心細い』という感情はこのことなのか。
厭だ。
何なのだ。
こんな、こんな何も無い世界に私だけがずっと在るのか?
そんなのは厭だ。
それは救いじゃない。
私が救われたかったのに。
私が消え去りたかったのに。
世界が消え去って自分だけが取り残されるなど………。
そんな。
それは地獄だ。
何故。
人間じゃないのになんでこんな目に。
地獄なんてあの動物達が考え出した愚かな想像の産物。
そのはずなのに。
自分には関係の無い話のはずなのに。
厭だ。怖い。不安だ。心細い。何も無い。誰も居ない。何故だ。どうして。厭だ厭だ厭だ。
「ううう………。」
誰か。
「か……。」
誰か助けてくれ。
「神よーーーーー!!!!」
「バーカ。」
「ええっ?」
だ、誰だ。誰か居たのか。
いま、バカだと言ったか?
私がバカだと………。
「だ、誰だ。」
まさか…………、神?
「ただの通りすがり。」
な…………。
通りすがりだと?
何も無いこんな所でそれは無いだろう。
こんな……、ここは………。
「ここは……、一体?」
「ここォ?うーん……《あなたの知らない世界》。」
「は?」
「知りたいの?」
し、知りたい。
ここは、いまは。
教えて欲しい。
「あ、あなたは…………神なのか。」
「いいや、神の犬さ。」
「え…………。」
なら、やはり神は戻ってきたのか。
「ほんじゃね。バイバーイ。」
「ま、待て………。どこへ……?」
「んー?ふふふ、カワイコちゃんを舐め回しに行くのさぁ。」
そんな、置いて行かないでくれ。
ひとりにしないでくれ。
いやだ。
きらり。
何か光り輝くものが見えた。
輝いている。
行ってしまう。
みんな私を置いて行ってしまう。
いやだ。
あの輝き。
あれこそが。
あれこそが神ではないのか。
おお、あの《黄金》の輝き。輝ける神よ。
きっと。
そうに違いない。
ああ、行ってしまう。
いやだ。いやだ、いやだ。
私は生まれて初めて、動物のように夢中で追いかけた。